少年口伝隊一九四五

 

八月六日。 

 

この日を迎えるたび、私を「少年口伝隊一九四五」という朗読劇に引き入れてくれた “ママ” の顔が目に浮かぶ。

本来は原爆で亡くなった方や平和に想いを馳せるべきなのかもしれないけど。

でも、ひとはいつだって自分の目の前のこと、身近なことしか見えないんだと思う。

 

それは当時の少年たちも同じだったんじゃないかな、と勝手に思う。

原爆で全てを失った少年たちは、「口伝」という目の前の仕事に必死になった。なるしかなかった。

でもそれはとても大事なことだった。

 

原爆で印刷機械が全部破壊され、新聞を発行できなくなった中国新聞社が、「口伝」によって人々にニュースを伝える。その役割を与えられたのが少年たちだった。

 

井上ひさしさんがなぜ少年たち、少年口伝隊にフォーカスを当てたのか。

それは、後世の我々が、少年たちのようにこの物語を「口伝」していくこと。

伝えること、その大切さそのものを伝えたくて、井上ひさしさんはこれを戯曲にしたんじゃないかな。

 

と、その “ママ” は教えてくれた。

語り部の方々も年々高齢になられていく中、「口伝」そのものを戯曲にすれば、繰り返し繰り返し上演されて受け継がれていくだろう。

井上ひさしさんにそんな意図があったかどうかはわからないけど、 “ママ” はそれを確信していた。

 

そして “ママ” は、そういう想いを「口伝」することが本当に上手かった。

いまでも、なぜこんな自分に出演の依頼をしてくれたのか分からないけど、 その想いを受け取ったらもはや断るという選択肢はなかった。

 

それから役者として参加し、数回目の公演、修学旅行生向けの公演では演出をやらせていただいた。

台本に書かれたテキストは何も変わらないはずなのに、何度演ってもまた新しい発見があった。

 

 

“ママ” 、“ママ” の言うとおりだったね。

口伝、伝えていくことこそが一番大切なことなんだと。

それなのに、 “ママ” がいなくなってしまってから、作品から離れてしまった自分を、あなたはやさしく叱るだろうか。

また強引な「口伝」で、作品に引き入れてくれたらいいなと思う。

 

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